蒸気圧の基本とプラントでの活用方法

化学工学/蒸留入門蒸留入門コースの2本目(全6本)公開更新広告

水の沸点は100℃、エタノールの沸点は78℃です。

一方で山頂で米を炊くと沸点が下がって美味しく炊けないとも言われます。

これらは蒸気圧が関係しており、大気の圧力を蒸気圧が上回ることで沸騰するようになります。

このように蒸気圧は、気液平衡状態における蒸気の圧力を表す重要な概念です。

この記事の内容
  1. 蒸気圧とは
  2. 混合溶液の蒸気圧
  3. プラントへの応用
  4. 蒸気圧の求め方
  5. 水を冷やすと沸騰する!?
  6. まとめ
  7. 関連記事

蒸気圧とは

蒸気圧とは気液平衡状態にある時の蒸気の圧力を表します。

飽和蒸気圧とも呼ばれ、蒸気圧が高いほど蒸発しやすいことを意味します。

蒸気圧のイメージ

水が入った容器を考えます。

蓋をせず上部を開放していた場合、水は時間経過とともに蒸発して減っていきます。

対して蓋をした状態では、蒸発しながらも水は減っていかないため蒸気と水が混在した空間となります。

最終的には蒸発と凝縮の速度が同じである気液平衡状態となります。

気液平衡状態で蓋部分にかかる蒸気の圧力が蒸気圧です。

蒸気圧のイメージ

温度と蒸気圧の関係

温度が高いほど蒸気圧は指数関数的に高くなります。

この温度と蒸気圧の関係を表した線を蒸気圧曲線と呼びます。

蒸気圧が大気圧(101.3 kPa)である時の温度が常圧の沸点です。

大気が外から押さえつけている圧力を、蒸気圧が上回ることで沸騰するようになります。

参考として、後述するアントワン式を用いてプロットした蒸気圧曲線を以下に示します(アントワン定数参考(別サイト))。

水とエタノール、メタノールで蒸気圧曲線は違うように、物質によって蒸気圧曲線は異なります。

蒸気圧曲線(水、エタノール、メタノール)

混合溶液の蒸気圧

これまでは単一成分に関する蒸気圧について述べました。

2成分以上の混合溶液の場合はラウールの法則に従います。

ラウールの法則

各成分の蒸気圧に系内でのモル分率をかけた値が各成分の蒸気圧です。

これをラウールの法則と呼びます。

ラウールの法則

$$ \begin{align} P_{Ax}&=\frac{n_A}{n_A+n_B}P_A\\\\ P_{Bx}&=\frac{n_B}{n_A+n_B}P_B \end{align}$$

式は横にスクロールできます

PAx , PBx:溶液での物質Aおよび物質Bの蒸気圧
PA , nA:純物質Aの蒸気圧[Pa]と物質量[mol]
PB , nB:純物質Bの蒸気圧[Pa]と物質量[mol]

上式の物質Bが不揮発性物質であった場合、例えば食塩水を考えます。

不揮発性物質である食塩を添加するほど水のモル分率は減少するため、水の蒸気圧は低下します。

これを蒸気圧降下と呼びます。

また蒸気圧が下がることにより沸点が上昇しますので沸点上昇とも呼ばれます。

ドルトンの法則

各成分の蒸気圧を合計すると、その系内の全圧が求まります。

これをドルトンの法則(ドルトンの分圧の法則)と呼びます。

ドルトンの法則

$$P=P_A+ P_B $$

式は横にスクロールできます

P:全圧[Pa]、PA:物質Aの蒸気圧[Pa]、PB:物質Bの蒸気圧[Pa]

蒸気圧降下(沸点上昇)

ラウールの法則とドルトンの法則を組み合わせることで、溶液における系内の圧力は次のように表現できます。

ラウールの法則とドルトンの法則

$$P=\frac{n_A}{n_A+n_B}P_A+ \frac{n_B}{n_A+n_B}P_B $$

式は横にスクロールできます

P:全圧[Pa]、PA ,nA:物質Aの蒸気圧[Pa]と物質量[mol]
PB ,nB:物質Bの蒸気圧[Pa]と物質量[mol]

プラントへの応用

ここではプラントでの蒸気圧の利用方法を解説します。

蒸留

蒸留は物質の沸点の違いを利用して分離するため蒸気圧と密接に関わります。

蒸留の計算を行うには蒸気圧を確定・予測しておく必要があります。

また系内の圧力を下げ沸点を下げて蒸留する減圧蒸留は有名です。

キャビテーション

キャビテーションは液体が流れる場所で圧力差が生じた際に、短時間で気泡の発生と消失を繰り返す現象です。

気泡が弾けて消失する際には大きなエネルギーが発生します。

そのため配管や機器へのダメージを避けるためにもキャビテーションを防ぐ必要があります。

キャビテーションは特に船のスクリューやポンプなど周囲との速度差が大きいエリアで起こります。

例えばポンプの場合、ポンプ内の圧力が蒸気圧以下まで下がると液体の蒸発が始まり気泡が発生します。

液体の蒸気圧を把握し、ポンプ内部の圧力を想定して配管等も含めた設計をしなければなりません。

蒸気圧の求め方

ここでは蒸気圧の求め方を解説します。

ちなみに基本的な物質は既にデータがあることが多く、まずは調査することをお勧めします。

アントワン式

蒸気圧の経験式としてアントワン式があります。

アントワン式

$$\log_{10}P = A-\frac{B}{t+C}$$

式は横にスクロールできます

P:圧力[mmHg]、t:温度[℃]、A:アントワン定数[-]、B, C:アントワン定数[℃]

アントワン定数は物質固有の値です。

アントワン定数が分かれば温度に対する圧力(蒸気圧)が求められ、蒸気圧曲線が作図できます。

アントワン定数は大江先生のHP(別サイト)にも一部掲載されています。

また化学工学便覧には大量のアントワン定数が掲載されていますので参考にしてください。

改訂七版 化学工学便覧(別サイト)

アントワン定数と温度から蒸気圧を換算できるツールも作っておりますので活用ください。

アントワン式を用いた蒸気圧計算ツール

プロセスシミュレータ

既知の物性データはプロセスシミュレータのデータバンクに保存されている場合があります。

実際にシミュレーションをする際は物性値ではなく物質名を選択するのみです。

実験

既知のデータがない場合は実験により求めます。

測定方法には様々な種類があり、必要となる試料の量や求める精度により異なります。

代表的な測定方法に関しては東レリサーチセンターのHP(別サイト)に記載されています。

また外部に委託する方法もあります。

例えばアドバンス理工(別サイト)では蒸気圧の受託分析サービスを行っています。

水を冷やすと沸騰する!?

沸騰した水を密閉した状態で冷やすと、再び沸騰する現象が起きます。これは次の順で容器内の状態が変化しているためです。

  1. 容器内の温度が下がり気化した水蒸気が凝縮する
  2. 水蒸気が減少することにより減圧状態になる
  3. 減圧することにより水の沸点低下する

普段の経験では理解できない現象でも、沸点が蒸気圧に由来することを知っていれば理解できます。

蒸気圧の理解を踏まえて、減圧沸騰の動画を見てみてください。

まとめ

蒸気圧は、気液平衡状態にある時の蒸気の圧力を表します。

物質の蒸発・凝縮現象を支配する重要な物理量であり、温度や物質の種類、混合割合によってその値が変化することから一定ではありません。

プラントの設計・運用にも大きく関係しており、蒸留条件の決定やキャビテーションの防止などに利用されます。

計算にあたってはアントワン式、ラウールの法則、ドルトンの法則が主に利用されます。

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